最近はAIにまつわる話を書くことが増えたが、今日はその対極の話をしたい。

子供たち (小学生)の身体性を高めるために、私がコーチとして取り組んでいることを書こうと思う。

少年野球に浸かる

もうすぐ6年生になる長男。

4年生の秋に少年野球を始めたことをきっかけに、我が家の休日はすっかり野球活動を中心に回るようになった。

追いかけるように次男も同じチームに入団し、あわせて私もコーチとしての活動を本格的に活動したのが昨年の3月。

そこからもうすぐ1年が経とうとしている。

最近では休日ともなると、朝から全員分のお弁当を仕込み、練習や試合だとあちこちを一緒に駆け回っている。

時には2歳の娘と妻も巻き込んで、 グランドに乗り込み、かたや野球、かたや遊具というフォーメーションで丸1日を学校で過ごすようなことも珍しくない。

そんな我が家だが、最近では私もS&Cコーチとして一定の責任を担うようになった。

「チーム全体の運動能力を向上したい。」と監督から依頼を受け、我が子を含むチーム全体のトレーニングをデザインし、毎週一緒に取り組んでいる。

私に白羽の矢が立ったのは、「アメフトコーチの経験があるようだ」という噂が監督の耳に入ったらしいのと、毎回子どもたちが行っていたランニングメニューを全力で一緒にやっていた、あたりが理由だろう。

運動能力を上げる

少し私の運動・スポーツ経験の話をする。

私は野球の経験は一切ない。

しかし、小中はバスケにスキー、高校はラグビー、大学ではアメフト、社会人になってからは筋トレ、ランニング、水泳、ストレッチと、ずーっと運動を続けてきている。

ただ小学生の頃は破茶滅茶に太っていたり、股関節が硬かったりと、決して「スポーツ万能!」だったわけではない。

ただ体を動かしていないと気持ち悪く、スポーツや運動が大好きで、いまだに続けている。

昨今の競技スポーツは、ますますフィジカルになっている。競技者は誰もがアスリートになることを求められる。

筋力の向上だけでなく、自身の重心を細やかに操作し、動作やコンタクトの出力を大きくしたり、逃がすことが必要となる。

これには高度な身体操作技術や、それを支える関節と筋肉の柔軟性、そして神経系の発達が不可欠だ。

トレーニング理論もアジリティ、スタビリティ、プライオメトリクスなど専門化し、日進月歩で発達していっている。

私の場合は、特に大学時代にこういったトレーニングを重ねたり、コーチとして学んだりした。

このときの経験では、「イメージ通りに体が動くようになる」「明らかに出力が上がる」という驚き・感動があった。

「子供の頃は万能ではなかった」と書いたが、それでも大人になってからも私の運動は未だに成長している。

  • 小学校時代には逆上がりすらできず、初めて実現できたのは35歳。
  • カナヅチだったが、クロールで100mを初めて泳げたのが36歳。
  • バッティングセンターで打ったボールが、まともにホームランゾーンに飛んだのが38歳。

何より、歳をとっても、何かしらの動きを習得するということは変わらず楽しいし、少年時代と変わらない感動がある。

一度「できることが増える」と、「できないことは克服できる」というメンタルやエネルギーが作られる。

こうして「運動を習得する能力」は精神性と身体性の両面から発達していくのだと思う。

私はこの能力を「運動能力」と呼んでいる。

ちなみに最近読んでいる本によると、脳細胞を鍛えるにも運動は欠かせないらしい。

運動能力の発達段階

LTADモデル (Long-Term Athlete Development)という理論がある。

これはカナダのスポーツ科学者イシュトバン・バリィ氏が提唱したモデルで、世界中のオリンピック委員会や競技団体に採用されている。

LTDAモデルは、個人の「成長スパート(身長が急激に伸びる時期)」を基準にトレーニング内容を最適化しよう、という発想であり、大きく5つの発達段階を設けている。

  1. Fundamental(基礎): 6〜9歳。遊びを通じた基本的な動き。
  2. Learn to Train(練習を学ぶ): **9〜12歳。**スキルの習得に特化
  3. Train to Train(練習のための練習): 12〜16歳。有酸素能力とスピード。
  4. Train to Compete(競技のための練習): 16〜23歳。専門的な技術とパワー。
  5. Train to Win(勝つための練習): 19歳〜。ピークパフォーマンス

小学生というのは、このモデルで言うとちょうど1と2のフェーズを跨ぐ期間になる。

ざっくりいうと、低学年は遊びを通じていろんな運動を習得し、高学年になるにつれて、徐々に基本的なアスレチックなスキルを「練習」していくフェーズと位置づける。

ここで重要なのは「決して専門分岐させないこと」だ。

つまり、野球のスキルだけを身につければいい、サッカーのスキルだけを身につければいい、ということではないのである。

私自身も、いろんなスポーツにトライしてきたが、どのスポーツが自分に合うかはやってみないとわからない。

20代を過ぎて、新しいスポーツにチャレンジをすることだってある。

小学生のうちは、「今後出会うどんなスポーツでも共通して使える土台」を作ったり、そもそも「運動ができることが楽しい」という感情を持ち帰ってもらうことが最優先だと思っている。

小学生のトレーニングをデザインする

こうした理論を活用しながら、では小学生のトレーニングをどうデザインするか、というのが私のイシューである。

現在はLTADにある「多種目・多動作の経験 (ABC's)」という考え方を用いてプログラムをデザインしている。

できるだけ野球の動作を意識させつつ、柔軟性、安定性、瞬発性、アジリティの4つをバランスよく組み込んでメニューを作っている。

例えば、チームの中で以下のようなトレーニングの目的と動作内容を記述したNotionデータベースを構築し、保護者の方々へ共有している (図は利用しているメニューの一部)。

メニューに対して、参考になるYouTubeリンクを付けて、保護者とお子さんとで一緒にイメージを掴んでもらったりもしている。動作は言語で説明するのがムズい…。

また小学生は地味なトレーニングメニューを黙々とこなすのはまだ難しい。

そのため緩急をつけたり、競争をいれたり、ゲーム感覚で飽きずに取り組んでもらう工夫も必要となる。

それでいて心拍数を上げたり、筋肉を温めたりもしないといけないので、プログラムを組むうえで考えることは多い。

以下はある日のメニュー例となる。

項目具体メニュー所要時間
ウォーミングアップジョギング、静的ストレッチ7分
ダイナミックストレッチ各関節や大筋群の動的ストレッチ。8メニュー8分
縄跳びアジリティ、バランス強化に良い。5メニュー10分 (1.5分+休憩0.5分を5セット)
ラダートレーニング複数の動作を組み合わせた強化。10メニュー程度20分

チームではこの後にキャッチボールなどの野球動作の練習に入っていく流れだ。

トレーニング効果

まだ開始して1ヶ月ほどだが、子どもたちの運動能力は間違いなく向上している。

  • 手足がチグハグでまともにステップを踏めなかった子が、十分なスピードでラダーを踏めるようになった
  • 二重跳びができなかった子が数回連続でできるようになった

などの、強い効果を実感できている。当人たちも嬉しそうだ。

このトレーニングの良いところは3つある。

  1. この子どもたちの現在地がどこであれ、必ず運動能力が向上する
  2. 中期的に野球の競技力にも転換されていく
  3. 「うまくなった」が喜びや自信に変わる

特に私が大事にしたいのは3つ目。

運動ができるようになる喜びを子どもたちに渡してあげたい。

誰もが将来、甲子園球児になるわけではない。

野球を辞める子もいるだろうし、別のスポーツへトライする子もいるだろう。

しかし生涯を通じて「運動」と楽しく、長く付き合い、自身の生活に組み込んでほしいと思っている (自分がそういう生活を理想としているから)。

AI時代の運動の価値

フィジカルなもの、リアルなもの、人間的なもの。

その代表が身体性であり、これから、ますます価値が上がっていくだろう、と思っている。

自分自身が身体性を特に大事にしているし、子供にも「身体性を大事にすることがいいことだ」という体験をプレゼントできるといいなと思っている。

ほっといても彼らの生活にはAIやデジタルが嫌と言うほど入り込んでくる。

その世界から距離を取る手段として、運動やスポーツを加えてくれたならコーチ冥利に尽きる。