「10Xはいまもスタートアップですか」
先日、10Xの沿革や価値観を探る1on2のミーティングで、社員から「10Xはいまもスタートアップですか」と聞かれ、私はこの括り方自体が適切ではないと答えました。この記事では、その答えの背景にある考えを、「産業性」と「創造性」という二つの性質を手がかりに言語化を試みます。
スタートアップという括りが測るもの
スタートアップは、突き詰めると企業価値の規模を追求する企業体だと定義できます。この定義では会社は規模という一つの量で測られ、その量でOpenAIやAnthropicに比肩する企業が日本から生まれることはないと私は考えています。そうであれば、「いまもスタートアップか」に意味のある答えを出すには、量で測る枠組みを選び直す必要があります。
産業と創造
10Xらしさを考えたとき、私の頭にまず浮かんだのが「産業」と「創造」という二つのキーワードでした。浮かんだ概念に対し、それぞれの性質を洞察し、自己理解を深めるというアプローチを採りました。
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私は産業の本質を、資本や勤労をはじめ、人やモノ、データ、感情など、さまざまなものを循環させながら持続していき、その循環によって社会の一部を形成する性質にあると考えています。私たちが目指すプラットフォームとは、これらを効率よく回すための道具であるといえます。
一方、創造の本質は、世の中に浮遊・離散している概念や未来への期待のようなものを、地面につけて形づくることにあります。「ネットで食品を買う」も「AIで発注する」も、概念としては以前からありました。価値が形成されるのは、それを店舗にとって実現された日常として提示されたときです。
10Xと小売という産業の関係
小売という産業の主役は小売の各社であり、10Xではありません。10Xが身を置いているのは小売産業そのものではなく、小売業のためのプラットフォームを提供するという別の産業です。そのうえで10Xは、小売という産業が持続し、成り立ち続けるためにStailer事業を営んでいます。
「持続成立」を分けると、成立は循環が閉じているかという問いであり、持続は環境が変わっても続けられるかという問いです。前者を担うのが産業性で、10Xは小売の循環を支えます。後者を担うのが創造性で、10Xは人口減少や人手不足といった変化に合わせて新しい概念を現場に降ろし、循環の中身を更新します。
本来、産業は自らの内側で循環を更新していくものです。しかし、既存の事業で成功している企業ほど、その事業を守る判断が合理的になり、非連続な更新に踏み込みにくくなります。イノベーションのジレンマとして知られるこの傾向は、小売に限らず多くの産業で見られます。だからこそ、守るべき既存事業を持たない外側の存在が、一社のためではなく産業全体の更新を担う必要がある、というのが10Xの存在理由についての私の仮説です。
AIとアルゴリズムによる更新の例
10XのAIプライシングやAI発注は、この外側からの更新の一例です。
小売では、売上のデータが値付けや発注量という判断に変わり、それが店舗での行動になってはじめて次の売上につながります。この判断は長くバイヤーや店長の経験と勘に支えられてきましたが、人手不足のなかで、その担い手を各社が確保し続けることは負担になっています。
10Xはその判断の一部を引き受け、担当者が替わっても同じ質の判断が繰り返されるような環境を構築しています。各社が同じ仕組みを自前でつくる代わりに、産業が共有する仕組みとして提供することで、10Xは循環の継続性を強めると同時に、熟練者の頭の中にあった知見を動く形にするという創造を担っています。
「意義を見つけた会社」という括り
私はスタートアップという括りに代わる基準として、「この会社が社会にどう存在し、関与するのか。その意義を定義し、全うできるかどうか」を自らに重要な問いとして置いています。この基準が測るのは、会社の大きさではなく社会との関係です。
意義を定義することは、経営者や社員の頭の中に浮遊している「何のためにあるのか」をミッションやクレドの形にすることであり、創造そのものです。意義を全うすることは、それに沿って判断を重ね、循環を続けることであり、産業性にあたります。
私自身の経営経験からも、「意義の設定」は非常に難しく、多くの試行錯誤と内省、環境との対話を繰り返した結果、経営者がようやく絞り出すものです。いまの10Xはミッションとクレドで定義し、そこに向かってまっすぐ歩めており、10Xは「意義を見つけた会社」と自負できます。ただしこの自負は、一社の要望と産業全体の持続がぶつかったときに後者を選ぶ、といった判断の積み重ねで裏づけ続ける必要があります。
クレドとミッション
クレドの「10xをつくる」は、非連続でありながら産業のあり方にとって重要な何かをつくるという会社のありかたを示し、小売などの特定のドメインにはこだわりません。
ミッションの「小売業の未来を拓く」は、10年腰を据えて取り組む中長期の仕事を示しています。
ミッションだけでは、それを果たした後に会社が何者であるかが定まらず、クレドだけでは、どこに腰を据えるかが定まりません。だからこの二つが揃っていることが大事だと考えています。
ミッションに向かううえでも、規模の追求は否定されません。デファクト・プラットフォームを目指すのは、産業全体を支えるにはそれだけの規模が必要だからです。
「いまもスタートアップか」への答え
10Xがスタートアップかどうかは、もう本質的な問いではありません。
10Xは小売という産業が成り立ち、続いていくための意義を定義し、全うし続けている会社です。10Xの自己紹介は、その意義で語りたいと考えています。
循環を支える産業性と、循環を更新する創造性が、その意義を全うするための二つの特徴的な性質です。
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