1年ほど前に友人のHikaruさんから「社會学部長」というYouTubeチャンネルを紹介してもらって以来、欠かさず動画を見ており、お気に入りの真面目系チャンネルの一つになっています (不真面目系のほうが多いですが)。
地政学や社会学をテーマに、アニメーションと落ち着いたナレーションで解説していくチャンネルで、学生時代は歴史が大の苦手の自分でも一本30分前後のボリュームがあるのにスルッと見切れます。
直近の動画「アメリカがNATOを脱退すると起こる、最も重大な問題」は冒頭から「ドイツが強くなりすぎるのが問題だ」「NATOはロシアに向けたものではない」という「おっ!?」と思わせる結論から始まり、過去の世界大戦や地政学的な視点からこの結論を肉付けしています。
時事ネタとして理解を深めたいなと思い、自分の咀嚼のために少しリサーチを加えてまとめてアウトプットしてみます。
NATO脱退で何が変わるか
まず直感的に思い浮かぶのは「ロシアへの抑止力が弱まる」という懸念です。
NATOの核心は第5条の集団防衛です。加盟国の一国が攻撃されれば、全加盟国への攻撃と見なして共同対処する取り決めで、ロシアが本当に恐れているのはアメリカとの直接対決です。アメリカ抜きではこの条項の効力が激減します。
さらに具体的な問題もあります。ヨーロッパのNATO加盟国が輸入する主要兵器の58%がアメリカ製で、最新鋭戦闘機F-35はソフトウェア・通信・整備のすべてでアメリカの支援が不可欠です。アメリカなしでは事実上運用できない。
では、なぜロシアよりドイツが問題になるのか。
NATOの本当の目的

Photo by Waldemar Brandt on Unsplash
NATO初代事務総長イスメイ卿の言葉が残っています。「ロシアを締め出し、アメリカを引き込み、ドイツを抑える」。
EU全体のGDPはロシアの約10倍(19.5兆ドル対約2兆ドル)です。動画では「アメリカが抜けてもヨーロッパが軍事費でロシアにキャッチアップするのは時間の問題」と断言していて、たしかにGDPにしめる軍事費の比率はまだまだヨーロッパの方が低く、長期的にはロシアの軍事投資をキャッチアップする余力があるとはいえます。

ただ、ヨーロッパにはそれだけの経済規模があるのに、実際には整えられていない。ならば問題の核心は別のところにあります。
本当の問題は「誰が指揮するか」という、司令官不在の問題です。NATOの欧州連合軍最高司令官(SACEUR)は創設以来ずっとアメリカ人が務めてきました。利害が対立しがちなヨーロッパ諸国を、域外の強大国であるアメリカという「監督」がまとめてきたから、というのがその理由です。
ドイツ問題
「ドイツ問題(German Question)」という概念をはじめて知りました。
ドイツは欧州のほぼ中央に位置しており、地理的に常に周囲を囲まれているという不安を抱えやすい構造にあります。
- ドイツはこの不安から軍備増強へ向かう
- すると周辺国 (フランス、イギリス、ロシア) が不信を募らせる
- 不信から、軍備増強する
その悪循環が、20世紀に2度の世界大戦をもたらした背景のひとつとされています。
NATOはこの「ドイツ問題」への構造的な解法でした。ドイツに軍事力を持たせながら、その「ハンドル」をアメリカが握る。フランスなど周辺国も安心でき、ドイツの安全も保障される。

アメリカが抜けた後のヨーロッパ
アメリカが脱退すれば、このバランスが崩れます。ドイツは自衛のために再び強大化せざるを得なくなり、イギリスやフランスとの間に「疑心暗鬼」が始まります。
バルカン半島の民族問題やトルコとギリシャの対立など、アメリカの圧力で抑え込まれていた「古い火種」が再燃する可能性もあります。
「現在の平和なヨーロッパが歴史的には異例であり、アメリカ不在はヨーロッパを80年前の本来の姿に戻すだけ」という、血も涙もない帰結に世界は向かっていくのかもしれません。
構造には抗えない
一時的な工夫 (NATO) で得られた秩序がいかに脆いものか、というのがこのNATOの例からはっきりと分かります。
ヨーロッパは歴史的に「一国が納めた」という例がなく、常に緊張と牽制関係があり、それはほぼ「地政学的な構造」からきています。何事も構造には抗えないという、これまた血も涙もない冷血な事実に見えます。
ちなみに、この動画は、Speakというアプリの広告案件であることが最後にわかるのですが、あまりに強引な繋げ方に驚きました。
これだけ品質の高い動画でもこのような強引な締めが許されるのであれば、このブログはなおのことでしょう。
PS. センゴク
ちなみにドイツ問題を見て私が真っ先に想起したのは、織田信長が戦国時代を駆け上がっていった最中に、浅井・朝倉氏を中心に包囲網を作られた「信長包囲網」です。
この一件も、「弟のようにかわいがっていた浅井長政による反乱」のように表現されることが多いのですが、現実には織田信長の拠点であった岐阜や京都が他国へ攻め入る際に包囲されやすいという構造に帰着したものではないかと思います。
歴史が苦手な私の戦国時代の知識はほぼ全て漫画で作られており、「センゴク」シリーズは年に1度は読み直すバイブルなのですが、世界史でも同じ位置づけのものがほしいと思って早10年。






