「Apple税」という言葉がある。
App Storeが開発者に課す手数料(売上の最大30%)を揶揄した言葉で、AppleがiOSアプリの販売を通じて、開発者の収益をかすめ取っているという批判的なニュアンスを含む。
同じ文脈で「プラットフォーム税」という言葉もあり、GoogleやApple、Amazonなどのプラットフォーマーが「場所代」を徴収することで、リスクを取らずに利益だけをかすめ取る存在として描かれる。
私は10XでStailerというネットスーパー向けプラットフォームを構築している立場ということもあり、この言葉にはやや敏感です。
プラットフォーマーは本当に利用者から場所代をかすめ取るボロい商売で、リスクはないのでしょうか。
プラットフォームについて
プラットフォームの定義については、4年ほど前に書いた記事に譲るとして、ひとことで言えば「第三者が価値を生み出せる場を提供する事業」と言える。
自分自身がユーザー体験をコントロールするのではなく、第三者がコントロールするための場所・ツルハシを提供することに徹する。
この「自分は直接的にユーザーに介入したりコントロールしない」という性質が、外から見ると「リスクを取らずに利益をかすめ取る存在」に映りやすいのだと思います。
プラットフォーマーが払っている税金
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逆に、プラットフォーマーにも固有の「税金」が課されているという側面は隠されやすい。
有名どころでは、Appleは2025年、App Storeを通じた詐欺トランザクションを22億ドル相当防止したと発表している。過去6年の累計では112億ドル。
毎年200万件以上のアプリ提出を審査で拒否し、13億件以上のレビューを処理して不正を排除している。
「30%は高すぎる」という批判は理解しつつ、小さな国家予算レベルのコストが、プラットフォームのセキュリティインフラの維持に充てられていることや、詐欺師との終わらない戦いを日々続けていることは、ユーザー (アプリ開発者) からほとんど見えない。
別の例として、Airbnbは「見知らぬ人が互いの家に泊まる」という、信頼の構築がとにかく難しいマーケットプレイスだが、24時間365日対応のTrust & Safety担当者が500人超おり、人身売買対策や詐欺検出、法執行機関との連携を担う外部専門家が20名超いるらしい。
Uberは乗客とドライバーをマッチングするだけに見えて、ドライバーの身元調査、保険の担保、リアルタイムの安全監視、各国固有の規制対応をすべて引き受けている。
共通しているのは、「場の信頼・安全・整合性を維持するコスト」がプラットフォームが大きくなるほど膨らんでいくという事実だ。そしてこのコストは、プラットフォームを使う側からはほぼ見えない。
プラットフォーマーに固有に発生する税金の一種と言えそうです。
Stailerが払っている税金
10XはStailerを通じて、多数の大手スーパーマーケットのネットスーパーを支えている。自分たちにもプラットフォーマーとして振る舞うがゆえの「税金」を払ってきた経験がある。いくつか例を書いてみます。
- 信頼性担保のコスト: Stailerが止まると全パートナーのネットスーパーが止まる。1社向けシステムとは桁違いの冗長性・監視体制が必要で、「当たり前に動いている」ように見える裏側のコストはかなり大きい。
- 標準化のコスト: 各パートナーが保有しているデータの違いや、業務フロー・要件の違い。個々の要件を「プラットフォームが扱える共通仕様」に抽象化し続けなければならない。この抽象化をどのレベルで、いつ行うべきか、その設計自体が大変難しい。
- 後方互換性のコスト: APIや仕様変更は接続している全パートナーに影響する可能性があるため、変更の判断は加速度的に慎重になる。本来なら1日で終わる修正が、影響調査と移行計画のために何倍もの時間を要することがある。
- 要求をトリアージし続けるコスト: パートナーが増えるほど、それぞれから寄せられる要求・要望が増え続ける。限られたリソースの中で、どれを受け入れてどれを断るかを、常に不完全な情報の中で決め続けなければならない。他のパートナーにも水平展開できる要求か、個別対応にしかならない要求かの見極めも必要で、切り落とした要求のホルダーは常に不満を抱く。
特に、「なぜ対応してくれないのか」という問いと向き合い続けることは、プラットフォーマーにだけ課される痛みと言える。
誰だって眼の前の人には喜んでもらいたいので、「それは実装できます!」と言いたいものだが、合成の誤謬を防ぐためにNoを伝えて、あえて100点が取れる機会から降りなくてはいけない。
この非対称性が、プラットフォーマーの税金の本質ではないかとすら思っています。
見えない場所で払われている税金
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プラットフォームを利用するユーザーからは、上に書いたコストのほとんどが見えない。プラットフォームが止まらないのも、仕様が一貫しているのも、当たり前に見える。どの要求が通りどれが通らなかったかの背景も、見えない。
Stailerは成果連動型の報酬モデルを採っているため、パートナーの事業が伸びることが自分たちの収益に直結する。必然的に、両社は一心同体的な関係になりやすい。パートナーが直面している問題は自分たちの問題でもある、という感覚が生まれる。
でも、ネットスーパーを運営する事業とそれを支えるプラットフォームは、根本的には別の事業だ。小売業が払っている税金と、プラットフォーマーが払っている税金は、種類が違う。どちらかがどちらかの苦労を完全に理解するのは、おそらく難しい。
だからこそ、歩み寄りが必要だと思っています。
プラットフォーム税という言葉が生まれるのは、プラットフォーマーが払っている税金が見えていないからで、プラットフォーマーが一方的に得をしているように映るから。逆もまた然りで、プラットフォーマーも、利用者が日々どんな税金を払いながら事業を回しているかを、想像し続けなければいけない。
それがプラットフォームを中心にした事業の健全なあり方ではないか、と考えています。






