野球が、チョットずつうまくなってきました。

息子たちのチームでコーチをするようになってからずっと、自分もノックを受けたりバットを振ったりして、最初はちゃんと子どもより下手でした。

その下手さの理由が、最近ようやく言語化できるようになってきました。

伸展と捻転

人間の身体操作には、大きく「伸展」と「捻転」の二つの成分があるように思います。

伸展は縮めた関節を伸ばして力を出す動き、捻転は体をひねって力を出す動きです。

どちらか一方だけでできている動作はほとんどなくて、実際にはどちらの比重が大きいか、という話になります。

そして私のこれまでのスポーツキャリアは、ほぼ全部が伸展寄りでした。

伸展は地面に体重をぶつける動作

ウェイトトレーニングのBig3(スクワット、デッドリフト、ベンチプレス)は、もろに伸展です。バスケのジャンプもダッシュも、ラグビーやアメフトのコンタクトも、基本的には伸展でインパクトをつくります。

私は小中でバスケ、高校でラグビー、大学でアメフトをやってきたので、この動作ばかり10年以上やっていたことになります。

伸展を強くしようとするとき、まず筋力が要りますが、筋力だけでは頭打ちになります。

その先で効いてくるのは、地球上で最も硬い「地面」に自分の体重をぶつけて、返ってくる反力をうまく使うことだと考えています。

反力の活用に重要なのは、骨盤や関節の連動性です。体重を地面に伝える効率を上げる操作で、これは明確にスキルが要るものです。

陸上競技のトレーニングの多くは、この反力活用をうまくやるために組まれているように見えます。走る動作そのものを、地面への力の当て方として分解して練習しているのでしょう。

捻転は伸展を横に折り曲げる動作

他方で、野球の基本動作の多くは捻転寄りです。

バッティングも投球も、伸展と捻転の両方を使います。ただ、より大きな力を出そうと思ったときに効いてくるのは捻転のほうではないかと感じています。

そして、この捻転が私はあまり得意ではなかったようです。

バットを振っても、腕で振っている感じがして力が乗りません。ボールを投げても、肩から先だけで投げている感覚がずっとありました。

最近になって、やっとひねりのエネルギーを感じながら使えるようになってきました。

掴んだ感覚を言語化すると以下のような流れになります

  • 後ろ脚で地面を蹴ります。ここは伸展そのもので、体を前に運ぶエネルギーが生まれます。
  • 踏み出した前脚でブレーキをかけて止めると、行き場をなくした前向きのエネルギーが、横軸のひねりに折れ曲がって流れ込んでいきます。

つまり、捻転はゼロから生み出すのではなく、伸展でつくったエネルギーを、前脚のブレーキで回転に転換する動作なのだろうと思っています。

きっかけは、3歳から続けているスキーとの類似性に気づいたことでした。ターンでスキーを踏み込んで制動をかけたときに体の中を回っていくあの感じが、まさにこれだったのです。

だから捻転で強くパワーを出すとき、一番の障害になるのはブレーキ側の足が負けることです。前脚が流れると、せっかく前向きに走らせたエネルギーが回転に折れずに、そのまま抜けていく感覚があります。

土台がブレないことが大事、というのはそういう意味です。踏ん張りは力を生むためではなく、力の向きを変えるために要るのでしょう。

この感覚でバットを振ると、飛距離が明らかに伸びてきました。コーチングの合間にやっているトスバッティングでも、ピッチングでも、出力が変わったのがわかります。

すると次に考えるのは、この感覚を子どもたちにどう伝えるか、です。が、今はまだうまい言葉が見つかっていません。

エビデンスチェックしてみた

せっかくなので、この感覚がバイオメカニクスの研究とどれくらい合っているのか、論文を調べてみました。

結果は、思っていたより悪くありませんでした。蹴って、止めて、回すという骨格の部分には、おおむね傍証があります。外れていたのは細部のほうでした。

ひとつだけ先に断っておくと、ここから引く研究はほとんどが相関を見たものです。ある量とある量が一緒に動く、という以上のことは言えません。私の感覚が証明されたわけではなく、矛盾しない材料が見つかった、くらいの話として読んでください。

筋量と連動性は対立しない

まず伸展の話からです。「筋力は要るが、それだけでは頭打ちになる」という感覚は、おおむね正しかったようです。ただし前半と後半で支持のされ方がまるで違いました。

前半の裏づけはきわめて強いものでした。英国ラフバラー大学のMillerらが2021年に、短距離選手の下肢23筋をMRIで計測しています。エリート、サブエリート、非競技者の3群比較です。

下肢の総筋量は、非競技者を基準にサブエリートが2割増し、エリートは5割近く多かったそうです。

競技水準別の下肢総筋量

競技水準別の下肢総筋量。Miller et al. (2021) の報告値から作図

さらに股関節を伸ばす筋群の体積だけで、100mのシーズンベストのばらつきの3〜5割が説明できました。大殿筋ひとつに絞っても3〜4割が説明できます。

筋量は、思いっきり効く重要な要素という示唆です。

おもしろいのは同じ研究の中にある非対称性です。等尺性の筋力、つまり台の上で測るような最大筋力は、エリートとサブエリートのあいだで差がなく、100mの記録とも関係しませんでした。

効いているのは「特定の部位の筋量」であって「筋力計の数値」ではないのでしょう。私が「筋力だけでは頭打ちになる」と感じたのは、たぶんこの区別を体で拾っていたのだと思います。

後半の連動性も否定されてはいません。オランダ・アムステルダム自由大学のBobbertらが1994年に行ったシミュレーション研究では、筋を強くしても筋の動員パターンを変えないままだと、跳躍高はむしろ下がりました。制御を最適化し直して、はじめて上がります。

筋量が上限を決めて、連動性がその上限をどれだけ引き出すかを決めます。対立ではなく順序の話だったようです。

ひとつだけ言葉が不正確だったのは「地面反力が大事」という言い方でした。跳躍高と強く相関するのは力そのものではなく、力と時間の積である力積です。ピークの力はむしろ跳躍高と負の相関を示します。

強く踏むのではなく、長く踏む。そういうことなのでしょう。子どもにジャンプを教えるときも、瞬間的に強く当てさせるより、接地を通して押し続けさせるほうが筋は通っていそうです。

蹴って、止めて、回す

本題の捻転です。「後ろ脚で生んだエネルギーを、前脚のブレーキで回転に変える」という感覚は、エネルギーの流れを追った研究と矛盾しませんでした。

少年投手24名を対象に、地面反力とセグメント間のエネルギー移動を同時に計測した研究があります。そこでは後ろ脚が地面を前に押す力が、骨盤や体幹といった体の中心部へのエネルギー流入と相関していました。

そして前脚が地面を制動する力のほうは、腕へのエネルギー流入と相関していたそうです。生む側と渡す側で、役割がきれいに分かれています。

ただし、これはあくまで相関です。「後ろ脚で生んだエネルギーが前脚のブレーキを経由して回転に化ける」という一連の道筋そのものを追いかけた研究ではありません。前脚の力と腕へのエネルギー流入が、それぞれ別の理由で一緒に大きくなっている可能性は残ります。私の感覚は、今のところ状況証拠に支えられている段階です。

球速との相関も、止める側にしかありませんでした。成人投手を両脚別々のフォースプレートで計測した研究では、前脚の地面反力が球速のばらつきの45〜61%を説明したのに対し、後ろ脚の地面反力は有意な相関を示していません。

打撃でも同じでした。バットスピードを最もよく説明する単一の変数は、前脚にかかる合成地面反力です。大学生20名のティー打撃で相関は0.66、説明率にすると4割強でした。残りの6割弱は別の要因なので、これだけで打撃を語れるわけではありません。

それでも「前脚が流れると抜けていく」という体感は、たぶんこのあたりを拾っていたのだと思います。

ここで、力とエネルギーの区別を挟んでおきます。

地面反力は、足という作用点が動かないので力学的な仕事をしていません。エネルギー源は常に筋の化学エネルギーで、地面反力はその変換を媒介する拘束力にすぎないそうです。

歩行でこれを定量した研究では、地面反力から計算した外的仕事が73ジュールなのに対し、実際の筋腱の仕事は274ジュールでした。4倍近い開きがあります。著者は、外的仕事を筋腱の仕事の推定に使うべきではない、と結論しています。

つまりエネルギーを生んでいるのは筋であって地面ではありません。地面は最初から最後まで、筋が生んだ力を逃がさないための支点として働いています。「蹴って生み出したエネルギー」という言い方は、この意味では正確でした。

だから次の数字も、エネルギーの大小ではなく、あくまで瞬間的にかかる力の大小として読んでください。投球中、後ろ脚が投球方向に出すせん断力は体重の0.35〜0.48倍程度、前脚が受け止める制動力は0.72〜0.77倍です。前者はMacWilliamsらが1998年に大学生と高校生あわせて7名を計測した値、後者は先ほどの少年投手24名の研究の値で、年代の異なる二つの研究を並べたものになります。

どちらの研究でも、押す側より止める側のほうに大きい力がかかっていました。

体幹は、転換器であると同時に発生器だった

捻転は「伸展でつくったエネルギーを折り曲げる転換」とだけ捉えていましたが、体幹はエネルギーを通すだけではなく、自分でも大量に生んでいることがわかりました。

9歳から13歳の少年投手を対象にした研究では、投球中に最大のパワーを発生させている関節は、腰と仙骨のつなぎ目でした。前脚の股関節のおよそ2倍、後ろ脚の股関節のおよそ8倍のパワーを出しています。成人でも同じ順序になるかはこの研究だけではわかりませんが、子どもを教える立場としてはむしろこちらのほうが直接効いてくる話です。

だから正確には、蹴って、止めて、回すの「回す」のところで、体幹自身がもう一度アクセルを踏んでいます。転換だけで説明しきれる動作ではありませんでした。

伝え方にも跳ね返ります。「前脚で止めれば勝手に回る」と教えるのは間違いで、止めたうえで体幹にもう一段入れる必要があります。ここは私の感覚が取りこぼしていた部分です。

伸展と捻転という分け方も、ここで一度更新が必要ですね。

二つは排他的な分類ではなく、同じ動作の中で比重を変えながら同時に起きる成分でした。野球のスイングは、後ろ脚の伸展、前脚の制動、体幹の回旋という三つが重なった動作だと捉えるほうが実態に近そうです。

捻転の「大きさ」は、思ったほど効いていない

ついでに言うと、「ひねりが大きいほど強い」という一般に流通している説明も、最近の研究ではかなり怪しくなっています。

骨盤と肩の向きのズレ、いわゆるヒップショルダーセパレーションの話です。大学1部の投手335名を試合中に計測した2026年の研究では、分離角と球速の相関はピークでも0.16でした。球速のばらつきの3%も説明できていません。著者自身が「弱い正の関係」と書いています。

ただし、ひねりが効かないという話ではありません。同じ投球でも、体幹の回旋の「速さ」のほうは球速のばらつきの25%を説明しています。効いているのはひねりの大きさではなく、ひねりの速さのようです。

ここまでに出てきた数字を、説明率に揃えて並べてみました。

球速・バットスピードを何が説明するか

球速・バットスピードを何が説明するか。それぞれ別の研究の報告値を、説明率に揃えて並べたもの

前脚の話が上に二つ並び、ひねりの大きさが一番下に沈んでいます。捻転という言葉から真っ先に想像する量が、一番効いていません。

運動連鎖の「骨盤から体幹、腕へと順番に力が伝わる」という教科書的な説明も、実測では守られていませんでした。高校からプロまでの14名が投げたカーブ71球を解析した研究で、理想的な順序どおりに投げられた球は1球もなかったそうです。

14名の研究なので「プロは誰も守っていない」とまでは言えません。それでも、順序を守れているかどうかを指導の合格基準にするのは分が悪そうです。私は、順序を「守らせるもの」ではなく「役割を思い出すための言葉」として使うことにしました。

前脚のブレーキには、壊れやすさが付いてくる

ここまでは自分の感覚に都合のいい話ばかりでしたが、ひとつ都合の悪いことも出てきました。

前脚を固めるほど球は速くなります。プロ121名を対象にした研究では、制球の良い投手はリリース時の前脚の膝の曲がりが小さかったそうです。より安定した接地、と説明されています。

ただし、そこにはトレードオフがありました。プロと高校生あわせて100名の研究では、全体の傾向として前脚の膝が1度伸びるごとに球速は秒速0.47メートル上がる一方で、肘の外反トルクも増えています。肘を壊す方向の負荷です。

なおこの研究、プロと高校生では傾向が逆で、プロは膝を伸ばすほど肘トルクがむしろ減っていました。土台が固まりきらないうちに膝だけ伸ばすと危ない、という読み方ができそうです。

子どもに伝えるときは、ここを外してはいけないな、と思いました。

学び

  1. 体で掴めていても、言葉にした瞬間に大事なところが落ちます。 最初これを「自分がひねりでエネルギーを生む」と言いかけました。動作は同じでも、その言い方だと後ろ脚で押す話と前脚で止める話がまるごと抜け落ちます。抜け落ちた側こそ、数字の裏づけがあるほうでした。
  2. 落ちた分を足して言い直しても、まだ足りませんでした。 「後ろ脚で押して前脚で止める」まで言葉にしても、そこから体幹が自分でもう一段力を出す部分が抜けます。しかも、ひねりの「大きさ」と「速さ」は振っている本人にはどちらも同じ「ひねり」に感じられて、数字で見るまで区別がつきません。体感を丁寧になぞるだけでは届かない場所がありました。
  3. だから伝えるのは、感覚ではなく役割と検証できる目印にします。 後ろ脚で押す、前脚で止める、体幹で回す。回すところは大きくよりも速く。そのうえで前脚の膝は伸ばしきらない。ここまで絞れば数字で裏が取れているものばかりですし、肘を壊すリスクも含めて話せます。

自分が生まれてから積み上げてきた身体操作の感覚を、新しいスポーツにはめて捉え直すのは楽しいものです。そのうえで、掴んだものが数字とどこまで一致してどこからズレるのかを確かめるのも、楽しい学びだなと思いました。

参考