前回の伸展と捻転による身体操作の途中で、この感覚を子どもたちにどう伝えるか、まだうまい言葉が見つかっていないと書きました。
それから数週間、ややスランプ気味だった学童の長男の打撃改善に二人三脚で取り組む時間のなかで、言語化も進んできました。参考にできそうな資料や動画を探しては、まず自分の身体で試してみる。なぜそう動くのかを自分なりに原理まで言葉にしてから、長男に伝える。一緒に試して動画を撮り、フィードバックをかける。この繰り返しです。
言葉がうまく伝わらないときは、自分の理解か、言語化のレベルのどちらかが浅いということなのでしょう。何度も言い直しているうちに、少しずつ伝わる言い方だけが残っていきました。
この中で作ってきたコーチングの方針を監督ともすり合わせ、チームのバッティング指導として一枚にまとめました。この記事はそのメモがもとになっています。
良いスイングを一言で決める物差しと、腰ではなく股関節と胸が回るという体の仕組み、子どものスイングを見る順番をまとめました。前回を読んでいなくても読めるように書いています。

バッティングは、良いスイングをする身体操作と、ピッチャーのボールにタイミングを合わせる対応の二つに分かれます。この記事で扱うのは、主に前者となります。
良いスイングができていないと、タイミングが合ってもヒット性の打球は飛びません。少年期は目の前の結果よりも、将来の基礎をつくるほうが大事だと考えています。
良いスイングを一言で決める
まず、指導のゴールを以下のように言語化しました。
- 良いバッティングの共通認識を持つ
- 体の基本的な構造を使ったバッティングを行う
- 子どもに十分かつシンプルに説明できる
- 個々の特性に対しても、型との差分で説明・指導できる
この4つを揃えておかないと、子ども一人ひとりの癖を見るたびに、毎回ゼロから言葉を探すことになります。型が一つあれば、そこからのズレとして説明できるようになります。
4つの土台になるのが、最初の「共通認識」を一言で言い切る基準です。私は「力積が最大になるスイング」と置きました。
力積は、どれだけ強く、どれだけ長く押したかの合計です。力は一瞬ごとに変わるので、正確には平均の力に時間を掛けたものになります。ここではF×tと書きます。
ただし、この記事のtは物理の時間そのものではありません。バットがボールの通り道に面している時間のことで、長いほど当たる確率が上がると読み替えています。Fは当たったときの力、つまり打球の強さです。

物理の教科書どおりの定義を、自分で描き直したもの。図のΔtは実際に触れている時間で、本文のtとは別物です
厳密に言えば、バットとボールが触れている時間は千分の一秒ほどで、打者が操作できる量ではありません。借りているのは、力と時間を掛け合わせるという形だけです。
掛け算にしたのは、どちらかがゼロなら打球もゼロになるからです。強く振ろうとして頭が動けば、Fを取ってtを失います。tとFの取り合いを、一つの物差しの上で話せるのがこの基準の良さだと思っています。
tが長ければ、多少差し込まれて(振り遅れて)も当たります。Fが大きければ、芯を少し外しても打球は前に飛びます。完璧なタイミングを求めなくてよくなる分、打者はピッチャーや状況に意識を回せるようになると考えています。
当たる確率を上げる(t)
tを長くするためにやることは、大きく2つに分かれます。1つめは、打者がボールを安定して見ていられる時間を長くすること。2つめは、バットがボールの通り道に面している時間を長くすることです。
避けたいのは、動作の途中で頭が前後や上下に動くことと、ドアスイングです。ドアスイングは、肘が早く伸びて、開くドアのようにバットが外から大回りする振り方です。
ドアスイングではバットの軌道が体を中心にした大きな円になるので、ボールの通り道との接点が線ではなく点になります。点で重なるだけなので、少しタイミングがずれると芯を外します。

模式図であり、実測の軌道ではありません
逆に、ヘッドが体の近くから出てくる軌道であれば、通り道に重なる区間に幅が生まれます。多少差し込まれても、泳がされても(早く出すぎても)、当たる確率は残ります。
タイミングが合っていないときほど、焦って頭のブレやドアスイングが出やすくなります。タイミングそのものはこの記事の対象外です。それでも身体操作を先に整えるのは、tが長いスイングが、タイミングのずれを受け止める幅になるからです。
打球を強くする(F)
Fを大きくするには、地面を押す力と体をひねる動きを、ロスなくバットまで届ける必要があります。前回書いた「蹴って、止めて、回す」の続きです。
私たちはこれを、股関節回旋、胸郭回旋、前腕の回外の3つの基本動作に分けて教えています。蹴ると止めるは股関節回旋に、回すは胸郭回旋に入ります。前腕の回外は、前回は扱わなかったバットへの最後の受け渡しです。

下半身でつくった回転が、上半身を経てバットに渡る順番
3つがうまく連動すると、ロスなくスイングスピードにつながります。どこかが抜けると、その先を腕だけで取り返そうとして手打ちになります。
股関節回旋
軸足の股関節まわりの筋で地面を押し、その押しを地面に支えてもらって、軸足側の股関節を回します。エネルギーを生んでいるのは筋で、地面は支点です。
その回転を前足で受け止めることで、上半身にひねりが渡ります。前回見たとおり、バットスピードともっとも結びついていたのは前足の受け止めでした。ここが流れると、軸足でつくったものが回転に変わらずに抜けていきます。
この動作を支えているのは、大殿筋(お尻の大きな筋肉)の太さと股関節の柔らかさです。以前書いたフィジカルのプログラムでも、動的ストレッチで股関節まわりを動かしています。
ここがうまく使えないと、軸足の股関節が回らずに伸び上がり、タメ(ひねりをためた状態)が逃げます。下半身を使えないまま、上体だけで振ることになりがちです。
胸郭回旋
股関節と連動して、胸郭(肋骨に囲まれた胸のかご)が回ります。腰ではありません。
「腰を回せ」とよく言いますが、腰が回っているように見える動きの正体は、下の股関節と上の胸椎です。背骨のうち、腰の高さの腰椎はほとんど回らず、回るのは胸の高さの胸椎です。股関節は肩と同じ球関節で、腰椎よりずっと大きく回り、胸椎と並んで回旋の担い手になります。
だから上半身のひねりは、腰ではなく胸で考えるのがよさそうです。胸郭と肩甲骨の柔らかさが、この回旋を支えています。

胸郭・胸椎、腰椎、股関節の位置と、片側にどのくらい回るかの目安。胸椎と腰椎は教科書で広く使われる値で、文献によって幅があります
前回、少年投手の研究で、腰と仙骨(骨盤の中央の骨)のつなぎ目が最大のパワーを出していたと書きました。この研究でいう「つなぎ目」は、骨盤と体幹の境目を一つの関節に見立てたもので、胸椎の動きも含んでいます。回る量(可動域)と力を出す量(パワー)は別の量なので、腰椎がほとんど回らないこととは矛盾しないのだと思います。
体は対角線に使います。右打者であれば、トップ(バットを引ききった構えの位置)で右の胸郭がひねられると、左の股関節がやや伸びるようです。
この状態を崩さずに前足を上げます。前足が着地して軸足がひねられると、今度は左の胸郭が戻り始めます。ここで生まれる下半身と上半身のひねりのずれ(捻転差)は、上の体を一気に回すための助走です。大事なのは差の大きさより、戻るときの速さです。
胸郭は、下から渡されたものを回すだけではありません。止まった下半身の上で、自分でもう一段加速させます。前回の記事で、私の感覚が取りこぼしていた部分です。
前腕の回外
回外は、前腕をひねって手のひらを上に返す向きの動きです。上の手(右打者なら右手)の前腕が回外することで、ヘッドが後ろから勢いをつけて、体の近くから出てきます。
ここでいう「体の近く」は、グリップではなくヘッドの話です。手元を体に引きつけて振るのではなく、手元は体から少し離れたところを通り、バットの先端のほうが体の近くを回ってきます。この区別が大事なのだと思います。
回外の最中に脇が開いたり、利き手でこねたりすると、この通り道が崩れます。グリップが落ちず、上の手がインパクトまでバットの下側に残っている状態が目印になります。
うちのチームの子どもたちに多い課題
まず認識の面です。良いスイングのイメージを持てておらず、自分の苦手がどこにあるのかも客観的に見えていません。下半身を使う意識が弱い子も多いです。
tの課題としては、動作の途中で頭が動いてボールを定位置から見られない、目を離してしまう、素振りと実打でバットの軌道が違う、といったことが目立ちます。タイミングに間に合わないまま振ろうとすると、どうしてもこうなるようです。
Fの課題は、次の5つに集約されます。
- 下半身の動きが小ぶりで、股関節を使うイメージが弱い
- 軸足の回旋や大殿筋での押し込みができず、膝が伸び上がって目線がブレ、タメが逃げる(歩幅の調整が要ることも多い)
- 前足でブレーキをかけられず、軸足や上体が流れる(軸足が回し、前足が止める、という対の関係です)
- 胸椎の回旋によるバネが使えず、手で振ってしまう
- 回外の最中に脇が開いたり、利き手でこねたりする
どれか一つだけが原因になっていることは少なく、たいてい複数が重なって表に出ているように見えます。ドアスイングの原因の多くは、股関節の操作とタイミングのどちらかにあるようです。素振りではうまく使えていても、生きたボールにはタイミングが遅れて、慌てて手で振ってしまう子が少なくありません。
見るところ
観察の優先順位は、下半身から積み上げます。股関節、胸椎、肘、手首の順です。
| 優先順位 | 見るポイント |
|---|---|
| 1. 股関節 | 軸足の股関節が強くひねれているか。前足がつま先をやや内側に向けて着地し、かかとで回れているか。前足の膝が伸びきっていないか |
| 2. 胸椎 | トップで胸郭を後ろに引けているか。前足が着いたあと、胸郭を速く回しきれているか(手打ちになっていないか) |
| 3. 肘 | 肘が脇腹の横を通過して、開いていないか |
| 4. 手首 | 回外で後ろ(捕手側)のスペースを使えているか。ヘッドが体の近くから始動し、グリップが下がっていないか |
肘は3つの基本動作には入っていませんが、ドアスイングが表に出る場所として見ています。
どの段階でも共通して見るのは、頭の位置が体幹の中心軸の上に残っているか、前傾が保てているかです。頭が動くと、股関節や胸郭がどれだけ正しく動けていても、tが崩れます。
指導のポイント
ひとつめは、股関節の回旋を身につけることです。Fを生むいちばんの土台で、tにも効きます。股関節が回らずに伸び上がると目線が上下にブレるので、股関節が使えればtも守れます。
軸足のひねりで急加速し、前足でブレーキをかけると、股関節と胸郭のあいだにひねりの差ができます。この差は目的ではなく、下が止まってから上が一気に回りきる速さを生むための仕組みだと捉えています。
目印は、回旋したあとの前足の膝です。前足で受け止めるには膝がある程度伸びる必要がありますが、伸ばしきらないようにしています。前回、投球の研究で、膝を伸ばすほど球は速くなる一方で肘への負担も増える、と書きました。土台ができていない子どもには、伸ばしきらせないほうが安全だと考えています。
もう一つの目印は、骨盤が軸足の上で回りきっているかどうかです。
ふたつめは、頭の位置を体幹の中心軸の上に残すことです。下半身を強く使うほど、頭は揺れやすくなります。それを体幹で抑えられていれば、胸郭が戻りきるまで頭は残ります。動作の途中で前傾が崩れる子が多いので、構えの段階から前傾をつくっておくのも手だと思います。
みっつめは、下半身と連動して胸郭を速く回しきることです。胸だけを意識させるより、股関節とセットで声をかけるようにしています。目印は、前足が着いたあとに胸が回りきっているかどうかです。
よっつめは、回外で後ろのスペースを使い、ヘッドを走らせることです。グリップを落とさずに、ヘッドが体の近くから巻きつくように回ってくるのが目印です。ここは手の技術で、他に比べればラストワンマイルの部分ですが、個別には見ておきたいところです。
練習に取り入れたこと
アップでは、ハードルウォーク(ハードルをまたいで歩く運動)で股関節を回す感覚をつけています。
これまでチームではあまり取り組んでこなかった置きティーバッティングも取り入れました。ティーに置いたボールを、ひたすらフォームを意識して打つ練習です。
全体練習の中では、一人ひとりの課題をなかなか指摘できませんでした。置きティーの時間ができたことで、個々の課題を見つけて直すことに向き合えるようになりました。
長男に伝わったこと
長男には、軸足の股関節の回転と胸の開きの2つだけを意識してもらいました。スイングの最中に伝えるのは、軸足で回る、という一つだけです。
もともと、スイングのときに軸足の股関節が伸びきってしまうクセがありました。このクセが、少しずつ直ってきています。
学び
- 子どもには、良いスイングのイメージそのものがないことも多いです。 特に野球歴が浅い子や、プロなど他人の動作を見る習慣が少ない子に多い傾向です。自分の癖も客観的には見えていないので、「ここを直そう」と言われても、どこと比べて直すのかがわからないままになります。
- 動作を言葉で並べるだけでは、自分の苦手と結びつきません。 股関節、胸郭、手首と並べても、子どもにとってはどれも同じ「振る」の中の出来事に見えるようです。
- だから、コーチは一言の基準で見て、子どもに渡す意識は一つに絞ることにしました。 力積を大きくする、という一言があれば、頭が動く話(t)も、下半身が使えていない話(F)も、同じ物差しの上で説明できます。そのうえで子どもには、軸足で回る、のように一つだけを渡します。
自分の身体で試して、言葉にしてから伝えます。この繰り返しで残った言葉をこの記事に書き出しましたが、来月にはまた少し言い方が変わっているかもしれません(私も日々進化中です)。
参考
- 伸展と捻転による身体操作
- 子供の身体性を向上する
- 関節可動域表示ならびに測定法(2022年4月改訂)— 日本整形外科学会・日本リハビリテーション医学会ほか
- Three baseball myths debunked by physics — Andrew Grant (2016, Physics Today)
- Physics of Baseball & Softball Bats: Forces between Bat and Ball — Daniel Russell (Penn State)
- Lower body energy generation, absorption, and transfer in youth baseball pitchers — Pryhoda & Sabick (2022, Frontiers in Sports and Active Living)
- カパンジー機能解剖学 III 脊椎・体幹・頭部 原著第7版 — A. I. Kapandji(医歯薬出版)
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